ハウスクリーニング




病室 ++







 「いやぁ〜よかった。俺たちはすぐ退院できそうだしさっ。」
頭に包帯を巻き、腕にはギブスをつけたクリリン。その明るい声が ある病室内に響き渡った。
「悟空もよ、仙豆がありゃぁすぐに元気になれるのにな。残念だよな。」
特殊な機械に入れられ、身動きがとれない状態の悟空を見下ろす。
「あぁ…。こんなんじゃ…修行もできねぇな。」
ヘヘヘっ、と苦笑しながら答える悟空。彼の体は一般では考えられないほどボロボロなのだ。 それでも尚生きていられるのは やはり長年鍛えた肉体のおかげなのかもしれない。
「そんな体で修行しちゃ、あんたまた死んじゃうわよ?」
側に立っていたブルマが呆れたように悟空に言った。
「よしよし。悟空も元気そうじゃし、わしは病院の見学にでも行ってこようかの〜。」
ホッホッホ。と笑い声を上げながらドアに向かうのは スーツ姿の老人、亀仙人。
「見学ってねぇ、ど〜っせ看護婦さんのお尻でも追っかけるつもりでしょ?」
ブルマのその突き刺すような言葉に体をビクリと振るわせた。
「な、何をいっておるんじゃっ。わ、わしはただ退屈で…。」
わたわたとあわてるように言う老人に。はいはい、と言葉を流すブルマ。
「わーかったわよ。なら早く見学行ってくればいいじゃないの。」
「う、うむ…。」
老人は再び後ろを向くと ルンルンとスキップをしながら病室を出て行った。
「…結局行くんじゃない…。やっぱり目的は看護婦さんね…。」
「武天老師さまはあいかわらずだな。」
「あははっっ。」
クリリンとベットに座っている悟飯は 面白そうに笑っている。


笑い声が響く病室の中  チチは無言で その様子を眺めていた。


 「さぁって、私もココにいてもヒマだから。ちょっと家に戻ってくるわね。」
うーん…と背伸びをしながら ブルマは言った。
「ブルマさんまた戻ってくるんですか?」
「えぇ。ちょっと調べたいことがあるから一端帰るだけよ。」
じゃ、また後でね。と一言言って ブルマは病室から出て行った。
「…俺たちもヒマだよなぁ…。」
「そうですね。」
フゥ、とため息をつくクリリン。
「…なぁ、悟飯っ。俺たちもちょこっと病院回ってみないか?」
クリリンは思いついたように声を上げた。
「え…?回るんですか?」
「あぁっ。俺たちそんな重症じゃないしさっ。病院の庭結構広くて気持ちよさそうだしっ。」
「そうですか。いいですねっ。 でも…。」
悟飯はチラリ、と無言で立っている母の顔を見つめた。
すると、その視線に気づいた母は すこし笑い顔になって コクリ。と首を縦に振った。  それをみて悟飯の顔は パァッと明るくなる。
「あはっ!クリリンさん、行きましょうっ!」
「よしっ!じゃあ、悟空っ。行ってくるからなっ!。」
クリリンはワクワクと病室を出て行った。
「お父さん、行ってきますっ!」
あぁ、と悟空の小さい返事を聞いて、悟飯も病室を出て行った。





*





 病室はシンと静まり返った。
悟空の入っている特殊な装置の機械音だけが 部屋に響き渡っていた。
「はぁ…オラも退屈だなぁ…。」
静まり返った部屋の天井を見上げながら、身動きの取れない悟空は 独り言のように呟いた。
「…なぁ、悟空さ…。」
と、突然チチが口を開いた。
その声を聞いて悟空はひどく 驚いた。
「えっ!?チチ? おめぇこの部屋にいるんか?」
「なんだべ…。おめ、気づかなかったのけ?」
チチの声を聞いて、必死にどこにいるのか気を探ろうとしている悟空。
「気づかなかった…っ。だっておめ、ココに来てないと思ってたからさっ。」
その言葉を聴いて チチの表情は硬くなった。
「おめぇどこにいるんだ?オラ周りが見えないからさ。こっち来てくれよ。」
キョロキョロと左右に首を動かす悟空。チチは 近づこうとはしなかった。
「…チチ?どうしたんだ?」
ずっと無言でいたチチに違和感を覚えた悟空はチチに話しかけた。
「…なんで?なんでおらがココに来てないと思ったのけ?」
「…え?」
少し低いチチの声。
「おめぇ、おらが夫のお見舞いにもこねぇ白状な嫁だと思ってるんだべ?」
しだいに声が強まってきた。
「おめぇはおらがココに来るわけないって思ってるんだべ!?」
「チ、チチッ! 一体どうしたんだっ?」
ひときわ大きな声で叫んだチチに 落ち着かせるように悟空が声を上げた。
「だって…だって悟空さ…っ。
おめぇ、帰ってきてから一度もおらに話しかけてねぇだろ?何で?まだおらが 怒ってると思ってるのけ?話しかけるのが怖いのけ…!?」
チチは拳を握り締め ふるえる声で叫んだ。
「…おめぇ…泣いてんのか?」
「泣いてねぇっ!!おめぇ見えてねぇだろ!?おらの顔を見てみるだっ! 今はおら怒ってるんだべっ!!」
いっそう声が強くなる。
「見えてねぇけど…でも、その声は泣いてるときの声だ…。」
その言葉が ドキッとチチの胸を突き刺した。
「本当…おめぇどうした?」
心配そうに言葉をかける悟空。
「すまねぇだ …いきなり大声だしちまって…。」
チチは少し落ち着きを取り戻したようだ。
「なぁ、教えてけろ…。なんでおらに話しかけなかったんだべ…?」
視線を床に落としたまま尋ねた。


 「おめぇさ、一年間も 悟飯に会えなかったろ?」
え?と悟空の方向に視線を向けるチチ。離れているので顔は見えない。
「だからさ。おめぇが死ぬほど悟飯を心配することぐらい…わかってたさ。」
夫のやさしい声。
「それにオラ、今 体うごかせねぇしなっ。」
いつものように ヘヘヘッと笑いながら答える悟空
ぎゅうっと胸が締め付けられた。
笑ってるんじゃない この声は …悲しいときの声だ。
…悟空は 悟空なりに 気をつかってくれていたのだろうか。


 ずっとその場に立っていたチチの足が動いた。
「…いんや…、悟空さ…。おめなんもわかってねぇだよ…。」
少しずつ 悟空へと近づいていく。
「一年間会えなかったのは…おめぇも同じだべ…。」
チチは 悟空の顔の前で ピタリと足を止めた。
「…ヘヘッ。やっと顔が見れたっ。」
悟空の前にしゃがみこみ、小さく笑うチチ。
「ほら、やっぱりおめぇ泣いてるじゃねぇか。」
ハハハッ。と笑いながら 嬉しそうに話す悟空。
「…ないてねぇ…。笑ってるんだべ…。」
まだ少し声が震えている。
「おらが死ぬほど心配したのは…悟飯ちゃんだけじゃねぇべ…?
…おめぇもだ。」
「…うん。それもわかってる。」
チチの白い頬をつたう涙を 悟空はじっと見つめていた。
「わかったねぇ…。おめぇはわかってねぇ…っ。おらが…どれだけ心配したか…っ。」
大粒の涙が 次々と零れ落ちる。 悟空は無言でチチの顔を見つめていた。
チチはしゃくりながら 涙で赤くなった顔を そのままそこにうずめた。


 「…生き返ってくれて 本当に よかっただ…。」





*





 「あら?」
家から病院に戻ってきたブルマは 病室のドアの前に二人が立っているのをみて声を上げた。
「ちょっとーっ!クリリン君たち、そこで何してるのー?」
大声を上げながら走ってくるブルマ。クリリンと悟飯は その声に 驚きあわてながら、人差し指を口にあてた。
「え?何よ。一体どうしたの?」
不思議そうな顔をするブルマ。クリリンがクイと病室のドアに目を向けた。
ドアの上には小さな窓がついており、そこから中を覗いてみた。
「…あらら。なるほど。これじゃ入れないわね〜。」
ため息をつくクリリンに、顔を赤くして困ったような顔をしている悟飯。
「いいじゃないの。折角だから二人きりにしておきましょうよ。」
フフフ。と笑いながら再び病室の中に目を向けるブルマ。


「なんだよ、あんなにくっついちゃってさっ!俺入っちゃおうかな。」
「ク、クリリンさんっ!やめてくださいよっ。」
ドアに向かおうとするクリリンを あわてて悟飯は止めた。
「おーい、おまえらなんで病室に入らないんじゃー?」
病院見学を終えたであろう亀仙人が 手を振りながらやってきた。
「し――っっ!亀のじいさん 今中に入っちゃだめよっ。」
なんでじゃ?という老人に事情を話すブルマ。
チェ…とクリリンはいじけながら廊下の椅子にすわった。
悟飯は未だ顔を赤くしながらも うれしそうに病室の二人の様子を眺めていた。








<fin>

おまけ♪






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