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木漏れ日 ++




サワサワと 葉っぱが揺れる音がする。
視界は黒く その真ん中にぼんやりと 黄色い光だけが見えた。
ここは何処だろう。
自分の姿は見えなくて 立っているのか座っているのかすらわからない。 けれど 動かすことは可能なようで 少し足に力が入ったような感覚があったが あまりの 心地よさに この場所から抜け出してしまう事が物凄く 惜しいような気がした。


「…チ…。 チチ…っ。」


遠くから声がする。視界が明るくなってきて 動きたくもないのに おらの体は出 口に向かっている。 まだ ここにいたいのに。


「おいチチっ。おめぇなんでこんなとこで寝てんだ??」


目を開けると視界には 逆光のせいで少し暗くなっている夫の顔が写った。 ぼん やりと辺りを見渡してみる。自分は大きな木の根本に仰向けに倒れており 上を見 上げると そこには少し紅く染められた緑色の葉が生い茂っている。日も大分落ち ており 目の前に立っている夫の背中を照らしているようだ。
そういえば あまりにも気持ちよくて ここで寝ちまったんだっけ…。
意識がはっきりしてきたので体をゆっくりと起こして木にうっかかるような体制 を取る。


「なぁ、チチ。オラ腹へっちまった。早くメシ作ってくれよ。」


急かすように彼のお腹からイビキのような音が響く。彼自身も な? と子供のよう な顔を向けてくる。


「悟空さ… おらはメシを作る事しか出来ねぇって思ってるべ?」


一瞬何を言い出すのか 彼は少し 驚いたような表情になる。


「おらが悟空さに与えられるのは メシだけだべか?」
「そっそんなことねぇ!!確かにおめぇのメシは美味いけど それだけじゃねぇ!」


彼は突然真剣な顔になって 声を上げて言った。 そんな問い詰める気はなかった のだけれど と少し大げさ過ぎる表現をしてしまったことに反省した。


「…そう。おらには他にも出来る事があるだろ?」


彼をなだめるように優しい声でおらは言った。


「汚れたおめぇの服もキレイに洗うし 住みやすいように家の掃除もする。もち ろん美味いメシだって作れるし…」














「おめぇの子供だって 宿すことが出来るだろ??」














一瞬暖かい風が流れた。彼の目は大きく見開かれて 自分を見ていた。


「今更気付いた? おらはおめぇの赤ちゃん、産む事ができるんだべ?」


この世で最も大切な物を 彼に 与えることができる。
呆然と立っていた彼だが おらの前にしゃがみこんで ニヤリと笑った。


「…今の言葉忘れんなよ。後悔しても 知らねぇからな。」


ヒヒヒっと何かを企むような彼らしい笑顔。おらはそれを前にしてフフっと笑っ た。


「もぅ… 遅いべ。」


そう言っておらはお腹に手を添えた。それを見て 彼の表情はみるみるうちに変わっていく。





木漏れ日の木の下で 確かに見た。
暗闇に光る 小さな命の輝きを。










<fin>

●子供を生めるのは女性の特権だと思う。








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