ハウスクリーニング




言葉 ++




 最近の自分は なんだか異常だ。
といっても 体に異常が起きたというわけではない。
食欲もあれば 体力も衰えていない。十分健康なのに
心臓が常に音を上げてる。胸の中で魚が跳ねているようで 気持ち悪い。
何かを吐き出したくて でもそれが何かわからない。
こんなイラつき感を覚えたのは きっと生まれて初めてだ。
なんとなく、彼女の側にいれば治るような気がして
ソファーに座る彼女の隣に腰掛けてみる。 肩越しに伝わる彼女の体温が
さらに そのイラつきを増させる原因になるとは まだ気づいていなかった。


お互い何も言葉を交わさず ただ沈黙だけが流れていた。
ふと 自分の顔を見上げ 彼女がそれを破った。


「なぁ悟空さ。おらのこと好きだべ?」


彼女はいつも唐突に聞いてくる


「は?何言ってんだ?」
「おらはいつも好きって言ってるけど 悟空さの口から聞いた事ねぇ。」


…だってオラ言った事ねぇし…。


「だから、な?おらも言われてみたいだよ。おらのこと好き?」


そう問われて 口を噤んだ。
過去に何度か聞かれたが 自分の対応は今回も同じ。
毎度聞かれる度に息が詰まる。何も言えなくなってしまう。
顔を見つめる彼女の視線が 痛かった。


「なんだべ、やっぱりまだおらの片思いなんだべか。」


口を尖らせた彼女は あきらめたようにため息をついた。
同じ質問をしても 何も答えない自分の対応に
初めは彼女も不満だったようだが もう慣れたようだ。
とりあえず視線が自分から外れて ホッと胸をなでおろす。
再び沈黙の時がもどった。
頭の中でエコーする 彼女の言葉。
おらのこと好き?おらのこと好き? 好き? 好き?


「好きだよ。」


あっ、と手を口にあてた。
驚いた顔をした彼女が 振り返った。


「え?悟空さ、今 好きって言ってくれた?」


知らぬうちに言葉が口から漏れていた。聞かれてしまった。


「い、言ってねぇよ。」


あせっても 時既に遅し。 彼女はしっかりと聞いていた。


「いんや、おら聞こえたべ。悟空さ、好きって言ってくれた。」


その顔を見て驚いた。
こんな顔を見たのは おそらく結婚した時以来じゃないだろうか。
本当に。 本当に嬉しそうに 笑っていた。


フッ と今まで感じていたイライラ感が消えた、ような気がした。
それと同時に 顔がカッと熱くなる。
本能的に 見られてはいけないと 彼女から顔をそらした。


「なんだべ悟空さ…耳が赤いべ。 もしかして照れてるのけ?」


クスクス笑いながら チチは体へよりそってくるのだ。


「なぁ、もっと言ってけろ。好きって 言ってけろ。」


「…いやだ。」


顔をそらしたまま 答えた。
なんで、なんで としきりにせかす彼女。
あまりにしつこく迫るので 振り返るのと同時に口をふさいでやった。











 初めて口にしたわけでもないのに この緊張感はなんのだろう。
この満足感は なんなのだろう。
たったそれだけ。その一言を吐き出しただけなのに
信じられないほど 異常だったものが治った。
それは思い違いじゃないはずだ。
楽になった。 いままで自分は何故思い悩んでいたのだろう。
だったら毎日 言ってやろう。毎夜 言ってやろう。


「好きだ。  好きだ、チチ。」


彼女の記憶に 残らないように…。










<fin>

●伝えられないもどかしさ。 伝えることの恥ずかしさ。








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