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未来の約束 ++







今考えてみれば
あの人が守ってくれた約束は
生涯の中で あの時のたった一つだけだった。








「悟天ちゃん、怪我しねぇように遊ぶだぞ。」
生まれて一年ほどしか立たない 幼いわが子に靴をはかせて
先に外に出た兄の悟飯を追うように駆けていく 父にそっくりな息子を見送った。
ついこの間 やっと歩けるようになったと思えば 活発に兄にくっついて回っている。 悟天は兄が大好きなのだ。
悟飯も歳が離れているせいか 弟の面倒見が非常に良い。
母親の自分から見ても 悟飯は良い父親代わりといえる。
ただの兄じゃなく 自分が父に受けたような愛情で
悟天と接しているような 気がする。
「見てるか、悟空さ。」
悟飯ちゃんが おめぇの代わりになってっぞ、と空に向かって語りかけた。


約束なんか 知ったこっちゃない そんなダメダメなおめぇの代わりに。








*








『お父さんが消える直前に… お母さんにすまねぇって…。』


床に伏せて情けなく泣きじゃくる自分に伝えられた 息子からの父の言葉。


ずるい ずるい 悟空さは ずるい
今まで散々修行ばっかりやってたくせに
全然家に 帰って来なかったくせに
おらの事なんて 考えてなかったくせに


どうしてこういうときだけ 死ぬ時だけ
おらに言葉なんて 残していくんだ


考えられない 信じられない
どうして悟飯に困ったような顔させて
おらが 泣かなきゃいけねんだ
全て 悟空さのせいだ
死なねぇって 約束したくせに
約束破って 死んじまった おめぇのせいだ





どうしてこんな男と結婚してしまったのかと 後悔したのはその時だ。
息子を残して 妻を残して 死んでしまった 勝手な夫。
結婚なんて しなけりゃよかったと 本気でそう思ってしまった。


悟天がお腹にいたと 気づくまで。


母親の性とは悲しいもので 夫がどんなに憎くても 宿した命を愛しく想う。
生まれたこの子は 驚くほど父親にそっくりだったから
思い出してしまったのだ。
幼い頃に交わした 未来の約束。
バカバカしい事だと笑われたけど 悟空さは守ってくれた。
息子には武道をさせないといっても させてたし。
働くと約束しても 働かない。
死なないと約束しても 死んでしまった。
そんな彼が唯一守ってくれた あの約束。


『おらの事、お嫁にもらってけれ。』


『結婚すっか。』


後にも先にも あの人が交わす約束は
あの時の たった一つだけなのだろう。





「勝手な男だって 思ってごめんな、悟空さ。」


今ならはっきりとわかる。


本当に大切な約束は たった一つだけでよかったんだ。


守ってくれて ありがとう。








<fin>
















●本来彼は約束事は守る人だと思います。








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