題名のない駄文たち 1 ++







 「...このまま時間がとまっちまえばいいのにな...。」
腕の中ですっかり眠っていたと思っていた彼女が言った。
「...とまる?なんで?」
不思議そうにたずねると 自分の胸に顔を押し付けたまま彼女が答えた。
「だって...明日になったらまたおめぇは修行に出かけるだろ?だったらずっとこのままのほうが  おらはうれしい。」
いっそう強く 胸に顔をおしつける。
「...オラはそうはおもわねぇけどな...。」
少し間を空けて小さくつぶやいた。彼女の耳にはしっかりと届いたらしく、埋めていた顔を自分に向けた。
「...なんでだべ?おめぇはおらとこうしてるの いやなのけ?」
「いやじゃねぇよ。」
「じゃあ何でだべっ!」
整った眉を吊り上げて 寝室に鋭い彼女の声が響いた。

「だってさ、オラは修行もしてぇし おめぇの作った飯だって食いてぇしよ。時間が止まっちまったら食えねぇじゃねぇか。」
「もうっ。おめぇはいつだって飯のことばっかりでねぇか。」
あきれた顔で視線をそらされる。
「それによ... こういうことだって、ずっとじゃなくてさ、一日の終わりにするほうが...。」
「バカッ!」
彼女は顔を真っ赤にして力一杯胸をたたいた。
大して痛くはないけれど いてぇと言ってしまうのはもう癖だ。
「もういいだよっ。悟空さに言ったおらがバカだったっ!おやすみ!」
そう言って勢いよく体を反対側に向けた。
「寝るのか?」
「もともと寝てたんだべっ。早く寝ねぇと朝飯食えねぇぞっ。」
「そりゃ困るぞ。」
「じゃあさっさと寝るだっ。」
向こうで彼女のフンッという鼻息が聞こえると、寝室には夜の静かな空間が戻った。
ボーとそのまま彼女の背中を眺めていた。
丸みを帯びた肌白い肩に そこを流れるスベリとした黒髪。
思わず触れようとして その手を引っ込めた。ふぅと一つ深呼吸をして 天井に視線を上げて 目を閉じた。


おやすみ。また明日。







《日記より》








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