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いとし ++







無邪気な彼が好きだった。
楽しそうな彼が好きだった。
一生懸命な彼が好きだった。
戦う彼が好きだった。
迷惑そうな顔、 それでも自分の手を引っ張ってくれた彼が 大好きだった。





結婚してから、彼にその無邪気さはみられなかった。
旧友の前で見せる彼の表情は、あの時見惚れたものと全く同じものだったのに。 彼らがいなくなる途端 いや、自分と二人になった途端に 夫の顔からそれは消えた。
どちらが本当の彼なのか、自分には知る術すらない。 オラと住むのがいやなら 結婚ってやつを取りやめにしてもいいんだぞ、と 彼が冷たい目線で伝えてくる。
凍りつく背中。逃げ出したい衝動。動かない手足。 これは怖いんじゃない。
振りむかない夫。自分が出ていかないのは それでも彼を愛おしいと感じているから。








「なぁ、悟空さ。」


修行も食事も終えて何もすることがないのか、ソファで適当に体を休めている夫の背中に声をかけた。が、返事はない。 視線は窓を通過して、完全に日が沈んだ空を見つめている。無視を決め込んでいるように見えるこの光景だが、かろうじて 耳だけはこちらに傾けているようだ。


「おらを愛してほしいって言ったら・・・どうするべ・・・?」


暗闇に吸い込まれるように、だが確実に 声は悟空の耳へと届いた。
ゆっくりと振り返り、そして彼は笑うのだ。


「愛されてる錯覚だけなら、させてやれるかもなぁ。」


残酷に。
それでもいいと 体を預ける愚かな自分。








そうやって 体を重ねて 時を重ねて 想いを重ねていけば


いつか、来るのだろうか。
彼が心の底から おらを求めてくれる日が。
おらが想う 彼らしい瞳で見つめてくれる日が。


いつか、来るのだろうか。
彼が与える錯覚に 溺れる自分を責める日が。
















<fin>














●どんなことがあっても夫から離れようとない。それが私の中のチチです。





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